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鈴木徹という生き方#05 
感謝の気持ちを、いつも抱いて

■家族や友人・知人が僕を成長させてくれる

「人のサポートなしでは、成長できない」。これまでの人生で、強く実感していることです。ですが僕自身、以前は「自分の努力で成長しているんだ」なんて思っていました。母が炊事洗濯をするのは当たり前、父が仕事をするのも当たり前だと…。そして自分は、さも当然の顔をして、学校に通わせてもらっていたわけです。
 ところが交通事故で足を失ってからというもの、自分は人に支えられて生きているんだということを少しずつ感じるようになっていきました。人生には様々な分岐点があり、必ずそこには人が存在しています。僕も入院やリハビリ、退院後などあらゆるシーンで多くの人に支えられ、成長させてもらいました。
 まず、欠かすことのできないのが家族の存在。ボクの実家は専業農家なのですが、仕事の合間をぬっては40分もかけ病院まできて、看病をしてくれたのです。ときに母は、朝から夕方までいてトイレの世話までしてくれたり、父は夕方から翌朝までいて必要なものを買ってきてくれたりしました。仕事で疲れているなか、嫌な顔ひとつせずに看病をしてくれた両親には、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。その他にも、総勢100人を超える知人がひっきりなしに見舞いにきてくれたときなど、「ボクにはこんなに支えてくれる人がいたんだ」と、思わず涙したこともありました…。

■この人たちのおかけで今の自分がいる

 今でこそ冷静に振り返ることができますが、当時は、人生を左右する大変な時期でした。そんな僕の窮地を救ってくれた人、前へ踏み出す勇気を与えてくれた人たちを紹介したいと思います。
 まずは、恩師である八田政久先生(駿台甲府高教諭)。筑波大学へのハンドボールでの推薦入学がきまっていたにも関わらず、卒業式の1週間前に交通事故。しかも、僕が通っていた高校は自動車の免許を取ることを禁じられていました。普通に考えたら停学ものです。大学の入学取り消しも止むをえないところでしたが、八田先生は高校の校長先生をはじめ、茨城県にある筑波大学の顧問の先生のところまでも足を運んでくれました。そして結果的に僕は、まるで何もなかったかのように高校を卒業し、大学へ入学。卒業証書を病室のベッドの上でもらったときの喜びは、言葉では表現しきれません。踏み外しかけた道にボクを戻らせてくれた先生には、感謝してもしきれないほどでした。
 次に、義足となった足だけでなく、心の問題も改善してくれた山梨県立中央病院の看護師さんたち。「カッコつけないでいいのよ」とは、入院中に言われた言葉です。ボクは根っからのカッコつけで、入院中でも支給されるパジャマは着ずに、ハーフパンツにタンクトップ姿。治療の際に痛みがあっても、我慢して顔には出さないようにしていました。もちろん、悩みなども…。当時は、自分の弱みを見せないのがカッコいい男だと思っていたんです(笑)。ところがその一言をキッカケに、少しずつ悩みや相談ごとも打ち明けることができるようになりました。そこで思ったのが、「人に話すだけで、こんなにも楽になるのか」ということ。「足を失ったことで明るくなった」なんて言うと不思議がられるかもしれませんが、嘘ではありません。だって人前に立つと赤面して一言も話せなかった僕が、いまや学校や企業などで講演をしているのですから。でもこれは、看護師という名の相談役のおかげ。そして実は、その中のひとりが今の妻なんです。もちろん、入院前からナース服に憧れていたわけじゃないですよ(苦笑)。でも、僕の中で彼女たちは、間違いなく“白衣の天使”でした。
 3人目は、僕の義足をつくっていただいている臼井二三男さん(鉄道弘済会 東京身体障害者福祉センター)。義足は一度つくったら一生はけると思っている人が多いかもしれませんが、断端(切断面)は日々変化していくので、それに対応していく必要があります。まさに義足とは、はく側とつくる側の“二人三脚”の共同作業なのです。また、臼井さんは僕が陸上競技をはじめるきっかけを与えてくれた人でもあります。ふたりで初めて行った2000年の『シドニーパラリンピック』は一番印象に残っているし、昨年の2メートルクリアも臼井さんが観客席から後押しをしてくれたからこそ達成できたと思っています。今では、患者と技術者の関係を超えた、まさに家族のような間柄ですね。

■人やモノに対し、感謝の気持ちを抱いて

 もちろん、感謝している人は他にも大勢います。また、感謝するのは人だけではなく、モノも同じです。勉強をするときやスポーツをするとき、食事をするときなど普段の生活のどのシーンでも、なにかしらの道具を用います。人に偽りは通用しますが、モノには通用しない、と僕は思っています。上辺だけ良くてもモノを粗末にしているようでは、いつかはモノに足元をすくわれることでしょう。正直なところ、ボクもすぐに新しいモノに手を出してしまう性格でしたが、一流の野球選手ほど感謝の気持ちを込めて磨き続けたグローブを長く使うという事実を知ってからは、モノを大切にするようになりました。今ではグランドでの練習も、礼に始まり礼に終わるようにしています。就職・転職を控えたみなさんも、外見を気にする前に、まずこういった心構えという名の?内面?を磨いてみてはいかかでしょうか?
 自分の気持ちというのは、その気になればすぐに変えられるものだと僕は思います。今まで、人やモノを粗末にしてきてしまったと思うのであれば、これからは大事にするよう心掛ければいい。その際、決して忘れてはいけないのが「ありがとう」という言葉。その一言で、今後の人生が大きく変わる可能性だってあるのですからね。