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鈴木徹という生き方#03 
しんどいときこそ、上を向いて歩こう!の巻

■どうしようもない足のことは考えず、楽しいことを積極的に

 スポーツ選手にとってケガはつきもの。2000年のシドニーパラリンピック大会を終え、翌年のシーズンに向け冬期トレーニングに入ったときのことでした。断端(切断した部分)には傷が見当たらないものの、内部からズキズキとしびれるような痛みが…。次第に日常生活にも支障をきたすようになってきたので、主治医の先生に診断をお願いしました。結果は「接合している部分に神経があり、加重をするとその部分があたってしびれを起こす」とのこと。当時は、まだ大学2年生で授業もありましたので、春休み期間中に神経を3センチほど切断する手術をすることにしました。
 ちなみに、神経はゴムのようになっていて、引っ張りながら切るようです。手術自体は2時間程度で終わり。傷がふさがったらすぐに義足をつけた練習ができると思っていました。しかし、10日後の抜糸の日に義足をつけようとしても足がむくんでいて入らず…予想外の出来事にさすがに参りましたよ(苦笑)。春休みが明け「さあ今シーズンのスタートだ!」と意気込んでいたら、できる練習は上半身の筋力トレーニングのみでしたからね。
 さぞかし落ち込んでいただろうと思い、当時の日記をペラペラとめくってみると…不思議とネガティブな言葉は見つかりませんでした。むしろ今よりもハードな筋力トレーニングをこなしながら、時間があれば友達と遊んだり、彼女と旅行へ行ったり、すごく充実した日々を送っていた様子。今思うと、自分ではどうしようもできない足のことを考えるより、楽しさでその時期を乗り越えていたような気がします。無意識ながら、そうやって“心のバランス”をとっていたのでしょうね。
 結局のところ、跳躍練習を開始できたのは抜糸から3ヶ月後のこと。今でこそ、ケガで練習ができなくなっても焦らず平常心でいられますが、そのレベルにたどり着くまでの道のりは、正直…長かったです。

■目の前の試練から逃げ出さず今できることを精一杯やる!

 健常者だったころは、スポーツをするためには競技のことをメインに考えることができましたが、障害者になってからはそんな訳にはいきません。なぜなら、競技よりも病気や障害の部分の健康状態を考えなければならないからです。しかも、病気を患っている人の場合、パラリンピックに出場するような選手でさえも、実際は入退院を繰り返しながら競技を続けていたり、大量の薬品を服用しながら…という状況も多々あります。
 僕の場合は、運良く交通事故で足を切断したので、そのようなことはありませんが、断端への傷は耐えません。日常生活においても傷ができてしまうことはあるし、そのおかげで1ヶ月間、義足をつけられない時期もありました。もちろん切断をして8年目に入った今でも、当然のように傷はできます。結局のところ、どうやっても思い通りにはいかないわけです。でも、だからこそ「今できることを精一杯やろう」と、自然にシフトできるようになりました。
 障害者がなぜ強く、そして前向きに見えるかというと、毎日試練を与え続けられているからではないかと僕は思います。でもこれは、障害者に限ったことではありません。苦手な仕事を頼まれたり、上司との相性が悪かったりするのも同じ試練の一種。決定的な違いといえば、健常者は逃れられる可能性があるけど、障害者にはないということ。これまで試練を避ける形で転職を繰り返してきたり、逃げの転職を考えている人は、思わずドキッとしたのではないでしょうか? でしたら「今日からは逃げないぞ!」と決め、どんなことがあっても立ち向かっていく強い心を持つことを心掛けてみてください。きっと、今とは違う世界が広がっていくと思いますよ。

■前へ進めば、マイナスはない! しんどいときは空を見上げて…

 長い診療期間中、そうやって“心のバランス”をとっていた僕ですが、復帰後初の試合はさすがに緊張しました。約1年ぶりの出場だったのですが、その場所にいるだけで、もう心臓はバックバク(笑)。この気持ち、仕事を長期間休業した経験のある人なら分かってくれると思います。でも、そういった緊張とは裏腹に、不安はまったくありませんでした。とにかく「失敗してもいいから積極的にいこう!」と。「なんだ、これじゃイタリア人が女性をおとすための心意気と同じじゃないか」と、ついこの文書を書きながらツッコミを入れてしまいましたよ! 残念ながら恋愛では、そういう気持ちになったことはありませんが(笑)。でも、この気持ちを持っていたからこそ、復帰後の試合でいきなり自己ベストに迫る記録を出せたのだと思います。
 “前へ進む”ということは、もうそれだけでポジティブな一歩を踏み出しているのですから、得られる結果がマイナスということは有り得ないのです。これは僕自身、身を持って体験したことなので声を大にして言えます。確かに、同じ陸上部員が走り回るトラックの端っこでひたすら歩行練習をしたり、ベンチに腰をかけて上半身の筋力トレーニングをやるのは地味ですし、惨めな思いもしました。ですが、このときに積み重ねてきたものが、復帰後に自信めいた気持ちに変わり、自己記録に近い結果を導いてくれたのです。そのとき僕は、「神様は見ていてくれたんだ」と素直に喜びました。
 神様のことを詳しく語ることはできませんが、それらしきモノは存在しているような気がしています。僕のイメージは、太陽の光が神様の目で、世界中の人々を常に見守っている感じ。陰の努力だって、ちゃんと見てくれています。しんどいと思ったときは、ぜひ空を見上げてみてください! 日差しという名のエネルギーをもらえるはずですから。